「地域を巻き込むプロになろう!」セミナーⅡ・Ⅲ(講座レポート其ノ二)

地域を巻き込むプロになろう!
山口県県民活動中核的人材育成セミナー
NPO・地域コミュニティ・企業向け全5回

Ⅱ.プロボノ事例と組織マネジメント
~しものせき後見人支援プロジェクトの場合~
講師:林 陽一郎(はやし よういちろう)氏
<しものせき後見人支援プロジェクト代表・⑭ルナー代表取締役>

なお、林氏はこのプロジェクトにボランティアとして参加している。

☆講座の詳細は以下の通り。

林氏は看護師であり、以前は病院勤務をして、高齢者の介護、特に医療分野に携わっていた。

介護や治療を必要とする多くの患者との関わりの中で、高齢者のケアは長期間にわたることが多く、生活の中に楽しみや生きがいがあってこそ気持ちが前向きになり、治療やリハビリが活きてくる、ということを感じた。

患者がこれまで歩んできた人生、その中で培われてきた価値観や思いを大切に、生活を充実させ、医療やリハビリを自然なかたちで取り入れることが出来たら…という思いが募り、介護施設を開業した。

□プロジェクトの概要
~しものせき後見人支援プロジェクトとは~
下関で生活される認知症高齢者や障がい者の方を守るために、成年後見制度の啓発活動及び財源となる寄付を集め、下関市社会福祉協議会に専門スタッフを配置し、大きな受け皿を作り出す取組を始めるために「しものせき後見人支援プロジェクト」を立ち上げた。

~成年後見制度とは~(参考:法務省のHPより)
認知症、知的障がい、精神障がいなどの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合がある。

また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもある。

このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度である。

□発足までの準備期間…大事であり大変だった。
下関市社会福祉協議会、コカ・コーラウエスト⑭との顔合わせに始まり、10ヵ月の準備期間を経て発足。

当初は3、4人からスタートし、現在はプロジェクトのメンバー44人。

メンバーが増えるたびに、なぜこのプロジェクトが必要か(ゴール・コミットメント)をメンバー間で共有した。

□ファンドレイジング
~ファンドレイジングとは~(参考:ウィキペディア)
ファンドレイジング(Fundraising)とは、民間非営利団体(Non-Profit Organizations:日本では公益法人、特定非営利活動法人、大学法人、社会福祉法人などを含む)が、活動のための資金を個人、法人、政府などから集める行為の総称。

~ファンドレイジングとは~(参考:日本ファンドレイジング協会HP)
ファンドレイジングは、単なる資金調達にとどまらず、共感をマネジメントしながら組織と財源を成長させる力であって、人々に社会課題の解決に参加してもらうためのプロセスであり、寄付から社会的投資まで含むものである。

山口県共同募金会 久津摩氏との出会いで、「ファンドレイジングとは、課題解決へ向け、その活動に対する共感を生みながら、ファンを作り、みんなで楽しく、かっこよく取り組み、成果(自立性維持)を出していくこと」、と自分なりに解釈。

必要なもの(お金)を集める際には、資金調達のみを中心に考えてはダメで、細かく、「目標、やっていくこと」を決めた。

□仲間集めと情報整理
弁護士法人、行政書士、障がい者の親の会、消費者の会、認知症家族の会、包括支援センター、一般市民、大学生、企業役員、高齢者福祉関係者、障がい者支援団体などがボランティアとして参加。

専門家目線ではなく一市民が理解できる活動にしていこう!と決めた。
→市民が理解できないと共感が生まれないので、専門用語はできるだけ別の言葉でわかりやすく表現するようにした。

□下関成年後見の事例
・一人暮らしの親の認知症
・施設に入ってからのお金の管理
・振り込め詐欺など
・知的障がいの子どもの将来
・親が認知症で不動産処分できない
・相続で家族が揉めた
・孤独死 など

□お金集めに対する抵抗があった
「お金集めは行政がやることなんじゃないか…」と、福祉関係者はお金集めに抵抗があり。

だが、助成金は右肩下がりになる可能性がある不安定財源であり、寄付金は人件費に使え、きちんとお礼をすれば安定した財源となりうる。

□成年後見制度が周知されていない
・後見人が被後見人の財産を使い込むとか?
・お金がどのくらいかかる?お金をかけてやる効果は?
・成年後見制度ってどう使うの?
・どうやって使うの?どこに言えばいいの?(窓口が分からない)
・手続きが大変そう(敷居が高い)
・メリット、デメリットは?

制度の普及・啓発の必要性を実感

□成年後見制度が使えない?
申立時、後見人選任時に、
・制度上の問題
・制度を利用する上での問題があり

受け皿と費用の問題に直面する。

□プロジェクトの使命
・成年後見制度の理解が深まる(制度の啓発)
・必要とする全ての人が後見人をつけられる(受け皿の解決)
ゴール・コミットメント:成年後見難民ゼロの街へ!
→組織メンバーが1人増えるたびにひたすら話し、共通認識を持った。

□プロジェクトのロゴ
課題が重たいので、イメージを変える必要性を感じて、あえてポップにオシャレにカッコよくデザインをした。
・ポスター・のぼり・Tシャツ・名刺等を作成しロゴを掲載。
・「大好きっちゃ しものせき」というキャッチコピーを学生が作成。

□ボランティアの募金活動実施体制
・募金推進班(ファンドレイザーとしてお金を集めるプロ…お金集めが必要だと深く理解している人):自販機設置、企業担当(寄付つき商品企画)、募金箱設置
・広報班(広報担当):運営事務支援、フェイスブック等SNSでの情報発信、普及啓発活動(チラシ配り)など
・学習班(勉強会等学習関係担当:弁護士、社会福祉士など専門家に入ってもらう):プロジェクトによる勉強会の開催・資料作り、成年後見制度関連の情報交流など

◎ボランティアの過去の仕事歴、得意なことを聞いて生かすことが重要。
→そうすれば、プロボノとしてプロジェクトに更に深く入ってきてくれる。

福祉関係者は営業や人にお願いすることが苦手で奉仕の精神が強いため、お金集めの必要性がなかなか伝わらなかった。
→そこでボランティアのグループを3つに分けた。
→学習班も勉強会をするうちにゴール・コミットメント、ミッションに戻って考えるようになった。
→お金集めの必要性に気づき、学習班もファンドレイジング計画に入ってくるようになった。
→組織の一体感が出るようになった。

□その後の流れ
・発足式(ロゴ贈呈式、ゴール・コミットメントやミッションの発表)
・月1回の集会
・プロジェクト中期計画
・支援自販機の設置
・寄付つき商品企画
・募金箱の設置
・マンスリー・サポーター募金
・チャリティ・イベントに参加
・1周年記念イベント
・募金箱の協力店マップを作成
・1周年記念イベント後の祝賀会

□寄付金の現状(2015.10.26現在)
・支援自販機:13件
・百貨店プロジェクト:2件
・募金箱:30件
・現金寄付:数件

□募金箱を設置依頼するときの置き方のコツ
・プロジェクトのことを相手に「無駄に」解ってもらおうとしていないか?
→長く説明すると相手は面倒くさくなる。

・相手に時間をもらおうとしていないか?
→相手は忙しいことが多く、時間との勝負となる。
→「いいですよ、置いてください。」→「いつ募金箱を取りに来ます?」の流れに。

・相手に断られないだろうかと思っていないか?
→社会貢献なら、良い取り組みだと相手は軽く受けてくれる。→後でだんだんと内容を理解してくれる。

☆重要なのは以下の3点。
1.相手と一緒に写真を撮ってWEBで公開するなど、相手がもう逃げられない状況を作る。
2.「社協」という後ろ盾の存在を伝えると相手に安心感を与える。
3.後はしっかりとお礼を伝える。

□今後の対策として
・プロボノの獲得
・百貨店プロジェクトと自販機推進のための研修会
・講演会をチャリティー化
・福祉関係者は福祉関係者への募金箱設置推進
・新たなツールの検討
・募金ツールの階級アップを図る

☆林氏は最後に、
「メンバーが楽しくオシャレに感じることができるようにコーディネートすること」
「メンバー全員でゴール・コミットメントを共有すること」
の2点の重要性を説いてプレゼンを締めくくった。

<コーディネーター 久津摩 和弘氏のまとめ>
・ファンドレイジングサイクルの説明。
・継続的に支援してもらえるように寄付金を集める(7回お礼をする)。
・コミュニティファンドレイジング(地域を巻き込む)について。
→「共感」は「参加」から起こりやすいので、人を巻き込むことが大事。
・社会課題の共有と最高の解決方法の提案が大切。
→社会課題を解決することは「楽しくてオシャレでカッコいい」。

・各NPOが把握しておくべきこととして以下の2点を挙げた。
①自分のNPOではどのようなボランティアが必要なのか?
②各ボランティアに必要な業務経験や能力は何か?

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林さんの実体験をベースに進められたこの講座は、非常にわかりやすく、興味深い内容だった。

「社会課題の解決」というと、「堅苦しく、取っつきにくい」と、とかく一般人には手を出しにくいニュアンスが包含されているかもしれない。

だが、そういった先入観こそが、我々が実現すべき「より良い社会」への変革を遅れさせ、市民活動の活性化を阻害する要因になっているのだろう。

その点、林さんは、「わかりやすさ」、「楽しさ」、「オシャレさ」、「カッコよさ」など、ポジティブなイメージを前面に押し出すことによって、社会貢献活動に対する既成概念を打破し、より我々に身近な存在であることをアピールし、参加者の裾野を広げている。

「イマドキの社会貢献活動」の姿を、「イマドキの若者」の琴線にも触れる情報発信方法を使って、林さんは世の中に提示しているんだ!

<スタッフ:高橋>

講師の林氏
セミナーの様子
コーディネーターの久津摩氏