平成28年円卓会議『特別な配慮を必要とする人への災害時支援を考える』~特性別・災害時の支援心得~

はじめに

さぽらんてでは、平成28年に『特別な配慮を必要とする人への災害時支援を考える』をテーマに円卓会議を開催しました。この『特別な配慮を必要とする人』というのは、防災計画にあげられる“要配慮者”だけでなく、支援が必要なのに対象者から漏れがちな人達のこと。

その当事者でもある参加者の皆さんの一番の思いは、『非常時に際し、私たちのような人がいることを一般の方にもぜひ知ってもらいたい』ということでした。

支援が必要な人かどうか、見た目だけでは分かりません。例えば認知症。名前も住所も言えるのに、5分前に何をしたか分からなくなったり、避難していたブースが分からなくなったり、食事をとったことを忘れてしまいます。発達障害では、その立ち振る舞いが奇異の目にさらされて避難所に居づらくなることも。

そうした家族を抱えた人は、車や避難所外で避難生活を送ることに。さらに、避難所にいないことで支援物資や避難生活に必要な情報が行き届かないという二重の苦しみを背負うことになってしまうのです。

近年の自然災害は甚大で長引く傾向にあります。

そのためせっかく助かったのに、避難生活のなかで配慮が足りなかったために持病が悪化したり、命の危機に瀕したケースが先の東日本大震災や熊本地震でも起こっています。

そこでここのページでは、さぽらんてに登録している市民活動団体の協力のもと、特別な配慮を必要とする人たちについて対象者別にその特性と災害時の支援方法を具体的にまとめていきたいと思います。

要配慮者とは

山口市の防災計画では『高齢者、障がい者、乳幼児、外国人等は、災害時にはその行動等に多くの困難が伴い、また、避難生活では厳しい環境下に置かれるなど、特に支援が必要』として要配慮者と定義づけています。

具体的には

ア 65歳以上のひとり暮らしの者のうち避難行動が困難な者 イ 75歳以上のみの世帯の者のうちどちらかが避難行動が困難な者 ウ 要介護3以上の者 エ 身体障害者手帳1・2級の交付を受けている者 オ 療育手帳(A)の交付を受けている者 カ 精神障害者保健福祉手帳1級の交付を受けている者 キ 本人から申し出があり市長が避難支援等の必要を認めた者 ク 上記以外で市長が避難支援等の必要を認めた者

とされており、ア~キまでは該当者が自動的に対象となりますが、ク上記以外で市長が避難支援等の必要を認めた者については、民生委員を通じた自己申告制となっています。

要配慮者と認められると避難行動要支援名簿に記載されます。この名簿は市と担当地区の民生委員が管理することに。記載される内容としては

ア 氏名 イ 生年月日 ウ 性別 エ 住所又は居所 オ 電話番号その他の連絡先 カ 避難支援等を必要とする事由 キ 上記に掲げるもののほか、避難支援等の実施に関し市長が必要と認める事項があります。

避難行動要支援者名簿の更新は年1回ですが、対象者の異動や状況の変化を把握した場合は、随時に追加や修正を行うこととし、常に適正に保たれることになっています。また、難病に係る情報等、市で把握していない情報が名簿の作成に必要があると認められるときは、県知事その他の者に対して情報提供を求めることもあります。

対象別配慮

食物アレルギーをもつ人への配慮

食物アレルギーとは

アレルゲンとなる食品を摂取することによって、発疹、かゆみなどの炎症反応が起こってしまうことを食物アレルギーといいます。一般的には接種から1時間ほどで症状が現れ、食品やアレルギーの程度によっては、アナフィラキシーショックを発症するなど命にかかわることもあります(そば、ピーナツなど)。

日本では食品衛生法により食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかである食品のうち、とくに発症者数や症状の重症度が高くい食品7品目(えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生)を「特定原材料」として定めて表示を義務づけ、食物アレルギーを起こしやすい食品のうち20品目(あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、 牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)を「特定原材料に準ずるもの」として、可能な限り表示するよう推奨しています。

知っておいてほしいこと

食物アレルギーは甘えやわがままではなく病気です。原因となる食物を食べてしまうと様々な症状を起こします。食べるだけでなく皮膚や粘膜に触れたり、吸い込むことでも症状が出ることもあります。症状が重ければアナフィラキシーショックを起こしてしまい命にかかわる事もあります。それを踏まえたうえで、以下のことを知っておいてもらえると安心できます。

  • 貴重な支援物資でも食べてはいけないものがあります。
  • パン、カップラーメンなどには卵、牛乳、小麦などが使われています。
  • おにぎりであっても具材によっては食べる事が出来ないものもあります。
  • 炊き出しもすべての原材料が確認できなければ食べさせることができません。
  • 微量でも症状が出てしまう場合には、調理器具などの共有にも注意が必要です。
  • 小さな子供では自分でアレルギーであることを伝えることができません。子供に食べ物やお菓子を与える時には必ず確認をお願いします。
  • 非常時に患者や家族は遠慮して声をあげられず、苦労していることもあります。配給や炊き出しの際には「アレルギーの人はいませんか?」と声をかけてください。
  • 強い症状が出た時にはすぐに医療機関を受診(可能なら救急車で)できるように配慮してください。

※強い症状:ひどい蕁麻疹や強いかゆみ、声がかすれる、止まらない咳、ゼーゼー・ヒューヒュー、強い腹痛、何度も吐く、顔色が悪くぐったり、意識低下・消失など

【リンク先】

災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット

アレルギーっ子の会ぽれぽれ ブログ

発達障害者への配慮

発達障害とは

発達障害とは、発達障害者支援法には「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。

【主な症状】

  • 自閉症・・・3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
  • 高機能自閉症・・・3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
  • 学習障害・・・基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
  • 注意欠陥/多動性障害(ADHD)・・・年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
  • アスペルガー症候群・・・知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に分類されるものである。

文部科学省HP『主な発達障害の定義について』より引用)

知っておいてほしいこと

大きな変化が苦手な特性から、不安から場にそぐわない言動(大声で騒ぐ、走り回るなど)をしたり、こちらからの働きかけに強い抵抗を示すことがあります。

《対応方法》 してほしいことを具体的おだやかやな声で指示する(声を荒げると逆効果) スケジュールや場所の変更等を見えるようにわかりやすく具体的に伝える

耳が聞こえすぎるなど感覚過敏のある子どもは、大勢の人がいる環境が苦痛で避難所の中にいられないことがあります。

《対応方法》 教室や保健室、テントを使用するなど、小さくて落ち着ける避難スペースの確保を。 車の中なら落ち着ける場合、校庭など避難所へ自家用車の乗り入れ許可をもらうことで避難が可能に。

感覚鈍麻(感覚過敏の逆)の子どもの場合、体調不良やケガがあっても本人自身が気付いていないことがあります。

《対応方法》 聞き取りだけでなく、身体状況を目視でチェックする。 触らせてくれる子どもの場合、優しく触れて丁寧に確認する

言葉の聞き取りや理解が苦手な子どもがいます。

《対応方法》 文字、絵や写真、図、実物を使って視覚的に分かりやすく説明する。 個別におだやかに声をかける。 簡潔かつ具体的に伝える。

困っていることがあっても、言葉や表情でうまく伝えられないことがあります。

《対応方法》 「はい」「いいえ」で答えられるようなシンプルな質問を投げかける。

見通しの立たないことに強い不安を感じる子どもがいます。

《対応方法》 いつまでここにいる、何時からご飯を食べる、どこで寝るなどのスケジュールを見やすく示す空いた時間の過ごし方を提案できる工夫を。

危険な行為が分からないため、危険な場所や触ってはいけないものなどを勝手に触ったりしてしまいます。

《対応方法》 やっても大丈夫な、他の遊びや手伝いに誘う。 行ってはいけない場所や触ってはいけないものを明示するため『×』などの印を予めつけておく。 危険なものや場所が見えないようにする工夫を。

発達障害者に寄り添う家族は配給に並べない、必要な手続きにいけないことが多々あります。

《対応方法》 事前にご家族の了解を得たうえで周囲に理解協力を促す代理の人が取りに行っても大丈夫なように配慮ができる工夫を。

不安からパニック状態に陥ることがあります。

《対応方法》 落ち着いて、おだやかな口調で「大丈夫よ」などと声かけを。 (声を荒げると逆効果となり、パニック症状を引き起こしやすくなることも) 本人が安全と思えるパーソナルスペースへ移動させる。 ある程度発散できたら、好きな食べ物やゲームなどで気持ちを切り替える工夫を。

こだわりが強い特性から、例えばトイレが使えなかったり、配給が食べられないことがあります。

《対応方法》 簡易式トイレや様式便座の設置などを対策の視野に入れ、事前に案内できるとスムーズ。 年齢に関係なくオムツを使えるように配慮することで安心することも。 食べない場合は無理に食べることを勧めず、食べられなくても決して否定しない。 逆に食べられるものが限定されてしまうことから同じものばかりほしがることがあるので、 配給前に「1人1個まで」等、事前に伝えておく。

見た目で障害者とわかりにくいけれど困っている人たちです。

《対応方法》 見た目や自分の感覚で決めつけたり判断せず、何に困っているかを本人が理解できる方法で尋ねる。

これらはほんの一例であり、対応方法は個人の特性によってはそぐわない場合もありますことをご了承ください。また、発達障害関連の活動をしているさぽらんて登録団体も、要配慮者としての地域啓発や発信を行ったり、内部での勉強会やつながりづくりに力を入れています。

《関係登録団体リンク》

NPO法人山口県自閉症協会

NPO法人あくしゅ

マザーズスマイル山口 ブログ (「知っておいてほしいこと」ページ監修)

もふもふピース ブログ
ブルーライトやまぐち ブログ

要配慮者対応のための啓発グッズ

見えない障害が「見える」マーク

 

山口県は平成27年より内部障害・聴覚障害・発達障害・高次脳機能障害のある方、義足や人工関節を使用している方など「外見からは援助を必要としていることが

分からない方」が、援助を得やすくなるよう、身に着けることで援助を必要としていることを示す「サポートマーク」を配布しています。

また近年、同様に全国的に普及啓発が行われている「ヘルプマーク」が山口県でも活用されるようになりました。要配慮者の方々は、災害時だけではなく普段からこれらのマークを身に着けることで周囲からの支援を必要としていることを知らせているのです。

要援助者側が「援助が必要」と発信しているのに支援者側が知らなくては意味がありません。これらのマークを見たときに気付き知っておくことが必須です。

山口県障害者支援課(サポートマークについて)

山口県厚政課(ヘルプマーク等の配付について)

東京都福祉保健局(ヘルプマークについて)

障害について知り、共に生きる

あいサポートマーク

山口県は、誰もが暮らしやすい社会をめざして「あいサポート運動」に取り組んでいます。この運動では、障害の内容・特性や、障害のある方が困っていること、障害のある方への必要な配慮などを理解していただき、障害のある方への配慮やちょっとした手助けを行っていただくために、あいサポーター研修を実施しています。研修を受けられた方には「あいサポートバッジ」を交付しています。また、障害のある方が配慮を必要としていることを示す「サポートマーク」とあわせて、相互に声がかけやすくなるようにしています。

山口県障害者支援課(あいサポート運動について)

個々の特性を理解するために

園や学校、事業所等関係機関に個人の特性や成育歴などを伝えるために作成する「サポートファイル(サポートブック)」を持っている人もいます。災害が起こって支援者とはぐれてしまうなどの時に役立つこともありますが、個人情報が細かく記載されているものなので、取り扱いには十分な配慮が必要となります。

「サポートファイルやまぐち」の配布について

まとめ

見た目にわからない要配慮者の困りごとは、個人差がありますがアレルギー症状のある人、発達障害のある人だけではなく、病気やケガをしている人や高齢者、内部障害がある方や妊産婦などにもあてはまるものも多いといえます。

見た目にはわからなくても、生きづらさを抱えている人がいること、困った行動をする人は困っている人なんだということを知って対応するだけで、相手を思いやれるコミュニケーションができ、いい循環が生まれるのではないでしょうか。

災害時だけではなく、日頃からお互いに歩み寄る姿勢を持ち、誰もが気持ちよく支え合える地域を目指したいですね。